大震災とともに考える~優先順位の組み換えが生み出す新たな「価値」

野家 啓一   東北大学 文学部 人文社会学科 哲学専修
科学哲学、現代哲学 /研究領域:パラダイム、言語ゲーム、物語り論 ]

3月11日の東日本大震災では、津波の被害こそ免れたものの、私自身が被災者の一人となり、私が属する東北大学も教育・研究面で大きな打撃を受けた。大学は震災から二ヵ月後の5月9日にようやく授業を再開し、キャンパスも徐々に落ち着きを取り戻している。

あらゆるものが崩落して足の踏み場もない自宅や研究室を片付けながら考えたことは、これまでいかに多くの不必要なものに囲まれ、余計なものを貯(た)め込んできたか、ということであった。また、いざライフライン(電気、ガス、水道)が止まってみると、これまでいかに過剰なエネルギーを浪費してきたか、私たち自身のライフスタイルが知らないうちにいかにメタボ化していたかがよくわかる。

戦後の日本は、科学技術立国を旗印に、ひたすら経済効率と利便性向上を至上の価値として追求してきた。その行き着いた先が、今回の福島原発の事故である。おそらく東日本大震災は、敗戦やオイル・ショックに劣らぬ大きな価値意識の転換点となるだろう。「価値」というと難しそうだが、要するに物事の優先順位、何を大切なもの、かけがえのないものと考えるか、ということである。従来の優先順位を組み換え、新しい価値を見出すことは、震災に遭遇(そうぐう)した私たちの義務でなければならない。

そのためにも、若い世代の皆さんには、この夏休みを利用して東北旅行を計画し、被災地の現実をぜひ自分の目で見てほしい。むろん観光旅行であってかまわない(東北には良い温泉がたくさんあり、それも経済復興への支援になる)。ボランティア活動に加わるのなら、さらに貴重な体験を得られることだろう。その中から、新たな価値意識は芽生えてくるはずである。この未曾有(みぞう)の大災害を乗り越え、人間が人間らしく生きることのできる「3.11以後」の未来社会を構想することは、若い皆さんの双肩(そうけん)にかかっているのだから。

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のえ・けいいち/1949年宮城県生まれ。
科学の方法、科学理論の構造、科学と社会の関係、など科学的認識の論理と倫理に関する研究。理学部物理学科を卒業後、大学院で科学史・科学基礎論を学んだ。今回の福島原発事故では、科学技術の「シヴィリアン・コントロール」の必要性を痛感している。趣味は登山と俳句。著書『パラダイムとは何か』(講談社学術文庫)

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被災された皆さんや避難所におられる皆さんには、心よりお見舞申し上げます。この稀有(けう)な経験を、ぜひ言葉で表現してください。実体験から紡(つむ)ぎ出される言葉には、力強さと説得力があります。その言葉の中から、皆さんが担(にな)う未来社会の「かたち」が見えてくるはずです。

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