バイオマテリアル研究新時代~たくましく、オリジナルに進め!

赤池 敏宏   東京工業大学 フロンティア研究機構
生命理工学 /研究領域:再生医療、バイオマテリアル、ドラッグデリバリー ]

中高生の皆さんに、再生医療、遺伝子・医薬デリバリーシステム(※1)へ道を拓(ひら)くバイオマテリアルワールドへの招待状をお送りしよう。

ある分野の学問が、比較的地味な揺籃(ようらん)期を経て,ある時全面開花して時代変革の推進役になることがある。19世紀後半から20世紀初頭にかけての生化学/近代医学の全面開花を、E. Fisherらの有機化学・分子化学が先導したことはよく知られている(1902年以降、ノーベル賞<医学・化学>受賞者続出)。さて、この視点で私の参画してきたバイオマテリアル研究50年の歴史を振り返ってみよう。

外科医を中心とした人工臓器開発を志す医学者が、(高分子)材料研究者や(プラスチック)材料開発エンジニアとの共同研究で、各種バイオマテリアルの埋(う)め込み実験を繰り返した時代として、バイオマテリアル研究の第I期があったと思う。引き続き、材料科学の分子科学/物性論的進展と医学研究者の材料工学への理解の深まりとが相まって相互交流が深まり、バイオマテリアルサイエンス/材料生化学とも言うべき第2期の時代に移っていったと思う。

今やバイオマテリアルに関する学問は、分子という共通のメディエイター(仲介するもの)を介(かい)して、マテリアルサイエンスが (a)細胞生物学 (b)分子生物学 そして (c)発生学等々と真に融合する時代に突入する革命前夜と言った状況にあると言えよう。

皆さんを迎えるバイオマテリアル研究黄金時代(第3期)は、材料ゲノミックス(※2)という超学際的名称がふさわしい時代として展開されていくであろう。さらに重要なことはこうして設計されるバイオマテリアル研究にチャレンジすることは、生命現象のブラックボックスをみごとに解明することにも貢献するにちがいない。

バイオマテリアル研究を志(こころざ)す若き諸君達!新しい分野を開拓し、革新的新バイオマテリアル時代の推進者となっていただきたい。これまでは比較的標準的な学問の道を歩んで来た諸君も、振返ってよく見れば、これまでの人生体験は様々にユニークだったことに気付くだろう。人との出会いに到っては、さらに個性的だったに違いない。“輝く個性”と“運命の不可思議さ”に感謝しつつ、自信を持って医学・生命科学と材料科学という21世紀の主要な学問分野にまたがる架け橋となるように、たくましくかつオリジナルにバイマテリアルの黄金時代を生き抜いてほしい。再生医療、DDS(医薬デリバリーシステム)、遺伝子治療等々、震災後の未来医療を切り拓(ひら)く最も有力な分野として、バイオマテリアルワールドの未来は豊かである。

※1医薬デリバリーシステム:目標とする患部(臓器や組織、細胞、病原体など)に、薬物を効果的かつ集中的に送り込む技術。DDS。
※2材料ゲノミックス:再生医療、人工臓器、ドラッグデリバリーシステムなどのバイオマテリアル領域を、工学と分子細胞生物学の原理で解明・設計しようとする、今まさに生み出されつつある新しい学問分野。

本人写真

あかいけ・としひろ/1946年生まれ。
1975年春、大学に職を得てから35年。工学系博士課程までずっと高分子科学を勉強し続けて後、東京女子医大で医学・生物学への高分子材料の応用、すなわち日本における典型的な学際研究分野“バイオマテリアル”を立ち上げるべく奮闘(ふんとう)した。

被災された生徒・先生方へ

災害に伴う重篤(じゅうとく)なけがや疾患、そして放射線障害の治療にはバイオマテリアル研究に支えられた再生医療、DDS等の最先端医療工学が大きく貢献するものと期待されている。最後に私の青春から今日に至るまでの実感として述べよう。
たゆまぬ努力の蓄積は、加速度的に報われよう!
ぜひ、強い意志で頑張って下さい。

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