あらゆる体験にマイナスはない!~逆境で見出した生涯の研究テーマ

寺崎 昌男   東京大学 名誉教授
日本近代大学史・教育史

明治以後の日本で大学はどのように発展してきたか。その歩みを、(1)大学は政府・国家との間にどのような関係を持ち、どのように独立してきたか(大学自治の形成)(2)大学で行われている教育とそこで行われる学問はどのように変化してきたか(大学教育と学問の歴史)という二つの角度から研究してきました。

みなさんのお父さんお母さんが生まれられた4~50年ほど前まで、このような研究はごくごくわずかな学者しかやっていませんでした。それなのになぜ調べてみようと思ったか。呉服店をしていた実家が倒産しそうになったからです。大学4年次生から休学し、商売の手伝いと借金返済に明け暮れました。そして分かったのです、「学生として勉強だけしていればよかったのは、大変な特権だったのだ」ということを。社会や国家は、大学という場所をなぜつくったのか。特権に恵まれた者は、その成果をどうやって社会や国家に返して行けばいいのか。退学ギリギリの2年後にやっと復学しましたが、実家は競売にかけられて跡形もありません。

当時、上のようなテーマで勉強しても、就職口はありませんでした、しかし「自分が学んでいる『大学』という場所の正体をはっきり知りたい」という気持ちだけで、大学院や研究所で勉強を続けました。

でも50年後の今、大学のあり方は広く問われています。日本の大学についてだけでなく、世界の大学の中で日本の大学はどうあったらいいかということが絶えずニュースになり、議論されています。たくさんの大学教員たちが大学教育を研究したり、史料を調べたりしています。いつの間にか「ひとりぼっち」になることはなくなりました。

中学生や高校生で被災者になった方たちへ、特に申し上げたいと思います。学業が人より1年や2年遅れても、実はたいしたことではありません。苦しい環境におかれていても、かえってそのおかげで大切な気づきを得ることができます。
「あらゆる体験にマイナスはない」というのが、私の学んだ教訓でした。

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