金融工学で「お金の力」を最大限に引き出す方法を考える

枇々木 規雄   慶應義塾大学 理工学部 管理工学科
金融工学 /研究領域:ポートフォリオ最適化、金融機関のリスク管理 ]

金融は、お金を「使っていない」ところから預かって、「必要な」ところに貸す (融通[ゆうずう]する)仕組みです。震災で被害を受けた会社や人が再起するためには、お金が必要であるため、金融の仕組みは復興に大事な役割を果たします。一方、この仕組みを円滑に成り立たせるために存在するのが銀行などの金融機関です。

お金を貸す側から見ると、お金を借りた会社が倒産してお金を取り戻せない(回収できない)可能性(=危険、リスク)があります。これは信用リスクと呼ばれますが、この信用リスクの大きさを数学を使って評価し、お金を貸す方法は、金融を対象とする工学=「金融工学」の一つの研究テーマになっています。具体的には、過去のデータを使って倒産の要因を見つけ、その可能性を数値の形で求める方法を考えます。震災からの復興においては、このリスクの大きさを考慮しながらお金を有効に使ってもらう一方で、将来的にはお金を回収するという仕組みや方法が重要な鍵(かぎ)を握ります。金融工学ではそれをまさに考えます。私自身も現在、信用リスクの研究を行っており、何らかの形で貢献したいと考えています。

金融の役割の一つは、財産の価値が失われる(変化する)危険を引き受ける一方で、それを回避することですが、今回の震災で金融の仕組みが役立った実例を紹介します。ある会社(A社)は地震などの自然災害に対する建物や家財の長期保障をする保険を販売しています。これは、地震で建物が壊れたらそれを補償する(=保険金を支払う)もので、今回の震災でA社は多額の保険金を支払う必要が生じました。しかし、A社はあらかじめ地震が起きた際に対応できるように、「証券化」と呼ばれる金融の方法を使って、地震が起きたら自分達がお金を受け取れることを約束した商品を金融市場に売って、リスクを回避していました。そのため、震災で被害を受けた人たちにもスムーズに支払いができるはずです。

この取引においても金融工学の方法が使われています。今回の震災で、世の中には思いがけないリスクが存在することを多くの人が認識するようになりました。今後も地震も含めて様々なリスクを回避する仕組みを提供するために、金融工学が利用されていくことが期待されています。

金融は、文系で経済の分野と考えるのが一般的ですが、金融の仕組みをより効率的に作り、効果を上げるためには理系の観点も大事で、今や不可欠となってきています。復興に必要な「お金の力」を効果的に発揮するために、皆さんにも数学を社会と関連づけて学んでほしいと思います。

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ひびき・のりお/1965年東京都生まれ。
金融・証券取引における問題解決のための工学的手法の研究を行っています。特に、世帯の資産形成や金融機関のリスク管理のための数学モデルやリスクを分散する「ポートフォリオ最適化モデル」などが研究テーマです。

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