復興は共同体自治へ~便利・快適よりも幸せや尊厳を

宮台 真司   首都大学東京 都市教養学部 人文社会系 社会学コース
社会学 /研究領域:社会システム理論 ]

震災で日本の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈(ろてい)した。想定外うんぬんは出鱈目(でたらめ)だ。チェルノブイリ原発事故の同年に出た社会学者ベック『危険社会』によれば、想定外の際に事態を収拾可能か否(いな)かが問題だ。ギネス級堤防があったのに全滅した所がある一方、低い堤防しかないのに「想定に囚(とら)われるな、全力で逃げろ」との教えで全員助かった所があった。「絶対安全な」原発にせよ堤防にせよ、〈システム〉過剰依存が〈システム〉崩壊の際に地獄をもたらす。

防災に限られない。欧州では、共同体が〈市場〉や〈国家〉などの〈システム〉に過剰依存する危険を共通認識とする。だからスローフードや自然エネルギーが普及した。日本はグローバル化で〈市場〉と〈国家〉が回らなくなって以降、自殺・孤独死・高齢者所在不明・乳幼児虐待(ぎゃくたい)放置が噴出した。〈システム〉過剰依存と共同体空洞化が原因だ。震災でも、支援物資や義援(ぎえん)金を配れない状態が続いた。行政は平時を前提とするから非常時に期待できない。反省すべきは共同体自治の脆弱さだ。復興は共同体自治へ。

食とエネルギーが手掛りになる。欧州は、チェルノブイリ原発事故を機にスローフード化と自然エネルギー化が進んだ。食とエネルギーの共同体自治だ。〈システム〉機能不全の際の安全保障になり、経済発展も生む。株式時価総額1兆円超の自然エネルギー企業が世界に4社あるが、日本企業は皆無だ。特定の電力会社からしか電気を買えないのは変で、電力会社も電源種も自家発電も選べるのが先進国標準だ。共同体自治による復興には産業構造改革・税制改革・霞が関改革が必須だ。

だが、制度に加えて、価値観も変える必要がある。日本のGDPは世界3位だが、幸福度は75位以下だ。エネルギーや物に頼らなくても幸せに溢(あふ)れた社会がある。そう、学習や研究の〈最終目的〉が問われている。〈システム〉過剰依存を加速するだけの学問か、共同体自治に必要な知識社会に貢献する学問か。日本は前者に偏った結果、大きなしっぺ返しを食った。宗教が生活に根付いた社会(欧米もそう)では、便利や快適よりも幸せが、そして幸せよりも尊厳が、大切だと考える。尊厳には、自治が不可欠なのだ。

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みやだい・しんじ/1959年宮城県生まれ。
社会学の数理分野である社会システム理論を軸に、国家論、宗教論、性愛論、若者文化論、日本思想史、西欧思想史などを研究しています。今回の原発災害については、技術的文脈とは別に、社会的文脈を問題にしています。

被災された生徒・先生方へ

災害学によれば、大災害後に二度とかつての活気を取り戻せなかった社会(サンフランシスコや神戸)と、逆にかつて以上の繁栄を獲得する社会(東京など)があります。単に復旧を目指せば必ず沈没します。復旧でなく新興へ。

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