これからの日本を担う皆さんへ~教育の「仕組み」を作る立場から

德永 保   国立教育政策研究所 所長
教育政策の企画と実現、学校管理運営、教育財政運営 /研究領域:教育委員会制度、大学・大学院制度、グローバル人材育成、学術研究システム ]

私が所長を務める国立教育政策研究所は、文部科学省の教育政策形成に役立つ研究を行うとともに、全国学力調査の問題と先生方向けの様々な資料を作成しています。ここでは、教育の政策に携わる立場から、皆さんにお話ししたいと思います。

今回の震災で多くの方が亡くなり、被害を受けました。被災地の復興、再建をめざして多くの方々や企業がそれぞれの立場で努力し、国や関係する地方公共団体も全力で取り組んでいます。しかし、復興、再建のためには資金や人員、物資が必要です。そのため、もともと別の目的に使うはずだった資金を振り向けたり、私たち一人ひとりが今までのような快適な暮らしを少しずつがまんしていく必要があるでしょう。しかし、学校教育については、日本のすべての子どもたち一人一人が思い通り勉強できるよう、必要な資金を確保し教育環境を整備することに、政府は努力しています。なぜなら日本の未来を担(にな)うのは皆さんだからです。

日本の未来を担うといっても何か特別なことをするわけではありません。高校、大学で懸命に勉強し、その勉強を活(い)かして職業に就き社会的に自立すること、そのことが日本の未来を担うことです。一人一人がそれぞれの職業を通して社会や地域に貢献することによって日本の国は発展していくのです。

皆さんには、高校を卒業したら、あるいは大学を卒業したら、どのような職に就くのか今から考えてほしい。就職する、自分で事業を起こす、あるいは家業を継ぐこともあるでしょう。どのような職業に就くにせよ、その職業を通じてどのように社会や地域に貢献できるか考えてください。またそのために学校で何を学び、学んだことがどう役立つのか考えてください。

こういうことを言うと、数学の微分や積分、世界史なんて実生活には何の関係もないのにどうして勉強しなくてはならないのかと疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、微分や積分、あるいはaやpなどの記号が入り交じった概念的で抽象的な問題に取り組むことで、論理的に考え、表現する力が身に付きます。歴史の勉強を通じて、現在の状況は過去のできごとや制度の変遷の上にあることがわかります。どのような職業についても、論理的に考えてそれを表現することや、過去の経緯を踏まえて状況を分析し将来の計画を立てることを学んでおけば、きっと役に立ちます。

私は、大学卒業後、当時の文部省(現在 文部科学省)に入って、障害児教育やコンピュータ教育に携わり、昨年まで6年間、審議官、局長として大学や科学研究関係の仕事をしてきました。最近は大学教育のレベルの保証や評価を国際的な取り決めに基(もと)づいて行ったり、日本と外国の大学が共同で教育したり研究することが大変多くなり、高校生の時にもう少し英語を勉強しておけばよかったと後悔しています。

グローバルが進み、皆さんが社会人になる頃には、世界の様々な国の人々とチームを組んで一緒に仕事をし、また競争することもあるでしょう。アメリカやヨーロッパ、中国、韓国、ASEAN諸国、インドなど世界の国々の高校生も懸命(けんめい)に勉強しています。日本の中学生、高校生の皆さん頑張ってください。期待しています。

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本人写真

とくなが・たもつ/1952年長野県生まれ。
高校に入る頃から中央官庁で勤務して、各地域の振興・発展に寄与したいと考えていました。友人と遊び、水泳とスキーが大好きでした。数学が得意でしたが、単語やイオン化傾向などを覚えるのが嫌いで、英語と化学と古文が苦手でした。けれど古文の短歌や漢詩が好きで、コンピュータの自作に凝っていた時分に中世和歌を中心としたWEBコンテンツを作成していました。

被災された生徒・先生方へ

皆が応援しています。頑張ってください。そして先生方には、このような苦しい状況の下でこそ、これからの子どもたちにふさわしい未来の教育空間をめざして、新しい学びと新しい学校を作り上げていってほしいと期待しています。

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