2つの専門を駆使して、原発事故の情報発信と支援に貢献
伊藤 哲夫 | 近畿大学 原子力研究所所長 |
東日本大震災では、福島第一原子力発電所の複数の原子炉が同時に大惨事を起こし、原子力を学んでいる者にとって目を疑う状況となってしまいました。今、世界の最新技術を集結して、事故収束に向け努力をしているところですが思うように進んでいないのが現状です。
私は、今回の事故直後より5週間余り、読売テレビの「ミヤネ屋」に出演し、原子力発電所事故等の解説をしてきました。ほとんど情報もなく、台本もない中、起こりつつある状況を見ての視聴者への解説は、毎回正しく言っていたか、分かってもらえたかの反省の連続でした。現在の私の専門は放射線生物学ですが、38歳まで原子炉安全工学を専門としていたため、若かりし頃の知識を思い出しながら、また学生時代に習った教科書を紐(ひも)解きながらの挑戦でした。
原子炉の事故状況が少し一段落した頃、今度は一転して放射線の人体影響の話題となり、今も時々出演しています。私は、原子炉安全工学と放射線生物学という異なる分野を学んでいたため、今回の事故において原子炉で起きた事象、その結果起こった放射能汚染、そして放射線の人体影響といった一連のことを冷静に見ることができ、それなりの解説や支援活動ができたことは非常にうれしく思っています。
原子力学は、原子炉物理をはじめとして金属学、機械学、化学、放射線生物学、電気・電子、計測学等々非常に幅広い総合知識が必要とされ、各分野の密なるネットワークの知恵から成り立っている総合学問です。原子力エネルギーに対する賛否はあるものの、世界は大きなエネルギーを作り出す原子炉を安全に維持・管理でき、さらに安全性の高い原子炉が開発されれば、原子力発電からのエネルギーを強く望んでいます。世界に対するお詫(わ)びの意味からも、日本は今回の事故を十分検証し、その教訓を生かした総合的原子力の知識を有する優秀な人材を育成し、世界に貢献できる原子力技術国にならなければならないと考えます。
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